大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(行ウ)248号 判決 2000年2月28日

主文

一  被告は、東京都荒川区に対し、金7万円及び内金3万5000円に対する平成9年10月20日から、内金3万5000円に対する同年11月20日から各支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨の判決及び仮執行の宣言

第二  事案の概要

本件は、東京都荒川区の住民である原告が、荒川区長の地位にある被告が指揮監督を怠ったために、荒川区議会事務局長が、条例の定める事由に該当しないにもかかわらず、費用弁償に関する支出命令を行い、荒川区に損害が生じたと主張して、地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき、荒川区に代位して、被告に対し、右損害の賠償を求めている事案である。

一  地方自治法及び条例等の定め

1  議会運営委員会理事会

(一) 地方自治法(以下「法」という。)は、平成3年法律第24号による改正によって、新たに109条の2の規定を追加し、普通地方公共団体の議会は、条例で議会運営委員会を置くことができることとしたが、右規定は、283条1項の規定により、特別区にも準用されている。

(二) そこで、荒川区は、右の規定を受けて、東京都荒川区議会委員会条例(昭和31年東京都荒川区条例第12号。以下「委員会条例」という。)を平成3年10月4日条例第32号によって改正して、区議会に議会運営委員会を置くことを定めた(同条例3条の2第1項)。

(三) 現在、議会運営委員会の委員の定数は10人であるが(同条2項)、委員会には、委員長及び副委員長1人を置く(同条例6条1項)ほか、理事若干を置くことができる(同条2項)と定めている。

(四) ところで、荒川区議会には、議会運営委員会が設置される以前から委員会条例に基づかない会議機関として荒川区議会運営協議会が設けられていたが、同協議会は、平成3年7月10日、理事会運営要領を決定し、その1条において、委員会条例6条2項に基づき委員会に理事を置いた場合には、理事会を設置することを定めている。(〔証拠略〕)

(五) そこで、前記のとおり委員会条例の改正によって荒川区議会に議会運営委員会が設置され、理事が選任されると、理事会運営要領に基づいて、議会運営委員会理事会が設けられた。(弁論の全趣旨)

2  幹事長会

また、前記荒川区議会運営協議会は、荒川区議会幹事長会規約を定めて、その1条で、各会派間の連絡調整及び議員全体に関する事項並びに議長が必要とする事項等について協議するため、区議会に幹事長会を設置すると規定している。(〔証拠略〕)

3  費用弁償に関する規定

(一) 普通地方公共団体の議会の議員は、職務を行うため要する費用の弁償を受けることができるが(法203条3項)、その額及びその支給方法は、条例で定めなければならず(法203条5項)、法律又はこれに基づく条例に基づかずに費用弁償を行うことは許されない(法204条の2)ところ、これらの規定は、いずれも特別地方公共団体の議員についても、準用される(法283条1項)。

(二) 荒川区においては、法203条5項の規定を受けて、東京都荒川区議会議員の報酬、費用弁償及び期末手当に関する条例(昭和31年10月31日東京都荒川区条例第19号。以下「費用弁償条例」という。)が制定され、同条例7条1項は、「議員(議長、副議長、委員長及び副委員長を含む。)が招集に応じ、若しくは委員会に出席したとき又は公務のため特別区の存する区域内を旅行したときは、1日につき5000円の旅費を費用弁償として支給する。」と定めている。

二  前提となる事実

各項末尾掲記の証拠等によれば、次の各事実が認められる。

1  当事者

原告は、荒川区に居住する住民であり、被告は、平成元年9月から現在まで同区の区長の職にあるものである。(当事者間に争いがない事実)

2  幹事長会及び理事会の開催と費用弁償

(一)(1) 平成9年9月24日午前10時5分から、区議会議長応接室において、幹事長会が開かれた。

右幹事長会の出席者は、区議会議長荻原豊、副議長武藤文平、幹事長北城貞治、同車武夫、同相馬堅一、副幹事長並木一元、幹事長代理守屋誠の7名とオブザーバーの斉藤裕子であり、執行機関側から、説明員として、区長である被告をはじめ、遠矢助役、荒井収入役、高橋教育長、大渕総務部長、藤田総務課長、日置財政課長の7名が出席した。

右幹事長会では、<1>平成9年第3回定例会の会期、議事日程、陳情書の受理等、<2>会期中の区民文教委員会の開会、<3>都区制度改革に関する取組み、<4>本会議場への携帯電話、ポケットベルの持込み、<5>工事現場における不発弾処理の各議題が調査、審議され、午前10時49分に閉会した。(〔証拠略〕)

(2) その後、これに引き続いて、直ちに、同じ議長応接室で、議会運営委員会理事会が開催され、右の幹事長会において協議決定された事項等について、理事会として報告を受けたものとして了承、決定し、同理事会は、1分ほどで閉会となった。

右の議会運営委員会理事会には、その構成員である委員長北城貞治、理事車武夫及び理事相馬堅一の3名並びに出席資格を有する議長荻原豊及び副議長武藤文平が出席したほか、委員長の出席要請に応じて委員ではない並木一元及び守屋誠の両議員も出席し、また、前記の執行機関側の職員全員も出席した。(〔証拠略〕)

(3) 被告は、区議会事務局の支出の命令に関する事務を区議会事務局長に委任しているところ(荒川区会計事務規則(昭和39年東京都荒川区規則第6号)2条2号、5条1項)、同事務局長は、平成9年10月9日、右の議会運営委員会理事会に出席した7名の議員(議長及び副議長も含む。)に対し、費用弁償条例7条1項に基づく費用弁償として、それぞれ5000円(合計3万5000円)を支払うべき旨の支出命令を行い、同月20日、右各議員7名に対してそれぞれ5000円(合計3万5000円)が支払われた。(当事者間に争いがない事実)

(二)(1) また、平成9年10月16日午前10時2分から、区議会議長応接室で、幹事長会が開かれた。

右の幹事長会の出席者は、区議会議長荻原豊、副議長武藤文平、幹事長北城貞治、同車武夫、同相馬堅一、同鳥飼秀夫、副幹事長並木一元の7名とオブザーバーの斉藤裕子であり、執行機関側からは、説明員として、区長である被告をはじめ、遠矢助役、荒井収入役、高橋教育長、大渕総務部長、藤田総務課長、日置財政課長の7名が出席した。

右の幹事長会においては、<1>平成9年第3回定例会最終日における追加議案の提出、意見書、議事日程、陳情書の受理等、<2>第4回定例会の招集日、<3>子ども議会、<4>理事会に関する件、<5>予算・決算委員会の審査方法及び議会活動のPRの各議題が調査、審議され、午前10時25分に閉会された。(〔証拠略〕)

(2) 右幹事長会に引き続いて、直ちに、同じ議長応接室で、議会運営委員会理事会が開催され、右の幹事長会において協議決定された事項等について、理事会として報告を受けたものとして了承、決定し、同理事会は、1分ほどで閉会となった。

右の議会運営委員会理事会には、その構成員である委員長北城貞治、副委員長鳥飼秀夫、理事車武夫、理事相馬堅一及び理事並木一元のほか、議長荻原豊及び副議長武藤文平が出席し、また、前記の執行機関側の職員全員も出席した。(〔証拠略〕)

(3) 区議会事務局長は、同年11月11日、右の議会運営委員会理事会(以下、右の議会運営委員会理事会と前記同年9月24日の議会運営委員会理事会を「本件理事会」という。)に出席した7名の議員(議長及び副議長も含む。)に対し、費用弁償条例7条1項に基づく費用弁償として、それぞれ5000円(合計3万5000円)を支払うべき旨の支出命令を行い、同月20日、右各議員7名に対してそれぞれ5000円(合計3万5000円)が支払われた(以下、右の費用弁償と前記の同年10月20日に行われた費用弁償を「本件費用弁償」といい、これらについての支出命令を「本件各支出命令」という。)。(当事者間に争いがない事実)

3  監査請求の経由

(一) 原告は、平成10年11月5日、荒川区監査委員に対し、本件費用弁償はいずれも違法であるから、被告及び区議会議長荻原豊に対して本件費用弁償金7万円を荒川区に対して返還するように勧告することを求める住民監査請求を行った。(〔証拠略〕)

(二) これに対し、同監査委員は、同年11月27日、区議会議長荻原豊についての監査請求については区議会議長は本件費用弁償について何らの権限を有していないとしてこれを却下し、被告についての監査請求については、費用弁償条例7条1項の定める「公務のため特別区の存する区域内を旅行したとき」に当たるから、本件費用弁償は適法であるとしてこれを棄却した。(〔証拠略〕)

三  当事者双方の主張

(原告の主張)

1 費用弁償条例7条1項の規定は、公金の支給に関する規定であるから、拡大解釈・類推解釈は許されないところ、本件理事会への出席は、「委員会に出席したとき」にも、「公務のため特別区の存する区域内を旅行したとき」のいずれにも当たらないから、本件各支出命令は法令上の根拠のない違法なものである。

2 また、本件理事会は、何の議論もなく、わずか1分で終了しており、右理事会への出席は公務とはいえない。

3 被告は、財政の最高責任者として、予算編成及び執行の権限を有し、たとえ、その権限を部下に委任したとしても、部下の権限行使について適正な指揮監督を行うべき義務を負うところ、平成元年から区長の地位にあり、かつ、被告自身、前記のいずれの理事会にも参加していたにもかかわらず、故意又は過失によって、右のような指揮監督上の義務に違反し、違法な支出命令を阻止しなかったものである。

その結果、平成9年10月20日及び同年11月20日の2回にわたってそれぞれ7名の議員に対して合計7万円が支払われ、荒川区は同額の損害を被った。

4 よって、原告は、法242条の2第1項4号前段に基づき、荒川区に代位して、被告に対し、右損害金7万円及び内金3万5000円に対する平成9年10月20日から、内金3万5000円に対する同年11月20日から各支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を荒川区に対して支払うことを求める。

(被告の主張)

1(一) 法283条1項の規定によって特別区に準用される法109条の2第1項は、普通地方公共団体の議会は、条例で議会運営委員会を置くことができる旨を定めるとともに、同条3項は、議会運営委員会は、議会の運営に関する事項、議会の会議規則、委員会に関する条例等に関する事項、議長の諮問に関する事項に関する調査を行い、議案、陳情等を審査すると定め、さらに、同条4項は、法109条所定の常任委員会の権限のうち、同条4項から6項までの規定を議会運営委員会に準用すると定めている。

(二) 荒川区は、委員会条例によって、議会に議会運営委員会を置くことを定め(同条例3条の2第1項)、議会運営委員会の委員の定数を10人とし(同条2項)、委員長及び副委員長1人を置くこととしている(同条例6条1項)。

そして、委員会条例6条2項は、委員会は、理事若干を置くことができると定め、同条3項は、議会運営委員会の委員長、副委員長、理事は、委員会において互選すると定めている。

また、区議会が、その有する議会運営の自主、自律権に基づき、荒川区議会運営協議会において定めた理事会運営要領は、その1条において、委員会条例6条2項に基づき委員会に理事を置いた場合には、理事会を設置すると定めている。

そして、同要領は、理事会は、委員長、副委員長及び理事をもって構成する(同要領2条1項)、理事は3名とし、委員会で互選する(同条2項)、議長、副議長は、理事会に出席できる(同条3項)、理事会は、委員会の円滑なる運営を期するため、委員会の案件、委員会の調査、審査の進め方、その他委員長が必要と認める事項について協議する(同要領4条)、理事会で決定した事項はこれを遵守しなければならない(同要領6条)と定めている。

(三) これらの法条、条例、規則の各規定及び理事会運営要領の規定等から総合的に判断すると、理事会は、議会の一の合議機関である委員会という組織体の内部に設置され、法や条例等が定めた委員会の権限の範囲内において、その権限の一部を行使するものであり、その調査、審査、審議等にかかわる活動は、委員会のする議会活動の一環であるということができるから、委員会の一部であると解すべきである。

(四) したがって、理事会に出席した議員に対し、費用弁償条例7条1項の規定に基づいて費用弁償をすることは違法ではない。

2(一) 荒川区議会運営協議会は、平成3年7月10日、荒川区議会幹事長会規約を定め、その1条で、各会派間の連絡調整及び議員全体に関する事項並びに議長が必要とする事項等について、協議するため、議会に幹事長会を設置すると規定し、同規約2条は、幹事長会は、議長、副議長並びに3人以上の所属議員を有する各会派間の幹事長をもって構成するが、3人以上の所属議員を有する会派にあっては、8人を増すごとに1人増員すると規定している。

(二) 区議会においては、議会運営委員会理事会、議会運営委員会を開催することになっているが、幹事長会では、1人ないし2人会派の議員が出席し、意見を述べることが可能であり、議会運営に関する審議が幅広く行われることとなるから、議会運営委員会理事会の開会に先立って、その直前に幹事長会が開催されることが恒例となっている。

幹事長会には、区長のほか、助役、収入役、教育長等が出席し、議会の会期や議事日程、陳情書や議案等の取扱い等に関する調査、審議がされている。

(三) 本件理事会の開催前にも、幹事長会が行われたところ、幹事長会の構成員と理事会の構成員とが同一であることから、理事会においては、幹事長会で協議決定された事項等を、理事会として報告を受けたものとして了承、決定したものである。

(四) しかし、幹事長会は、議会運営に関して議会の有する自主、自律権に基づき幹事長会が定めた幹事長会規約にその存置の根拠を有し、理事会とは異なって、法や条例にその存置の根拠を有するものではないことから、幹事長会において、議会の運営や陳情、議案の取扱い等に関して調査、審査、審議等を行い、議決や決定等を行ったとしても、その取扱いに関しては、法や条例にその根拠を有するものではない。

そのため、幹事長会において、議会の運営や陳情、議案の取扱い等に関して調査、審議し、仮に、議決や決定等を行ったとしても、法や条例上の法的効果が付与されるものではないことから、法や条例上の法的効果を付与されるためには、議会運営委員会理事会が開催され、これらについて付議され、そこで議決や決定等がなされる必要がある。

(五) したがって、本件理事会の開催については、その必要性があったものであり、たとえ短時間で終了したとしても、これにより、本件理事会が何ら調査、審議を行わなかったということにはならない。

3 以上のような法条、条例、規則の各規定及び要領の規定等からすると、被告が、前記1のように解釈して、区議会事務局長の本件各支出命令を阻止しなかったことには過失はない。

四  争点

以上によれば、本件の争点は、次の各点である。

<1>  荒川区において、議員が議会運営委員会理事会に出席することは、同区の費用弁償条例7条1項にいう「委員会に出席したとき」に当たるか。(争点1)

<2>  本件各支出命令が違法である場合、被告が区議会事務局長の本件各支出命令を阻止しなかったことに指揮監督上の義務違反が存するか。(争点2)

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

1  議会運営委員会について

(一) 法は、特別地方公共団体の議会は、常任委員会、議会運営委員会、特別委員会を置くことができる旨を定めている(法283条1項、109条1項、109条の2第1項、110条1項)。

(二) これを受けて、荒川区では、前記の委員会条例が制定され、企画総務委員会、区民文教委員会、福祉衛生委員会及び都市建設委員会の4つの常任委員会(同条例1条、2条)、並びに議会運営委員会が設置され(同条例3条の2第1項)、さらに必要がある場合には、議会の議決をもって特別委員会を設置することとされている(同条例4条1項)。

(三) 法及び委員会条例は、議会運営委員会について、次のとおり定めている。

(1) 委員会は、議会の運営に関する事項、議会の会議規則、委員会に関する条例等に関する事項、議長の諮問に関する事項に関する調査を行い、議案、陳情等を審査する(法109条の2第3項)。

(2) 委員会の定数は10人とし(同条例3条の2第1項)、委員長及び副委員長1人を置き(同条例6条1項)、委員長は理事若干を置くことができる(同条例6条2項)。

(3) 委員会は、委員長が招集し、また、委員の定数の3分の1以上の者から審査又は調査すべき事件を示して招集の請求があったときは、委員長は、委員会を招集しなければならない(同条例12条1項、2項)。

(4) 委員会は、委員の定数の半数以上の委員が出席しなければ会議を開くことができない。ただし、委員長及び委員の除斥の規定による除斥のために半数に達しないときは、この限りでない(同条例13条)。

(5) 委員会は、これを公開する。ただし委員長又は委員3人以上の発議により出席委員の3分の2以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる(同条例16条1項)。

2  議会運営委員会理事会について

(一) 議会運営委員会理事会は、前記のとおり、平成3年10月4日条例32号によって委員会条例が改正され、荒川区議会に議会運営委員会が設置されて、理事が選任された後、荒川区議会運営協議会が同年7月10日に同協議会の決定として定めた理事会運営要領1条に基づいて、設置されたものである。

(二) 理事会運営要領は、議会運営委員会理事会について、次のとおり定めている。

(1) 理事会は委員長、副委員長、理事をもって構成し、理事は3名として、委員会で互選する(同要領2条1項、2項)。

(2) 議長、副議長は、理事会に出席できる(同要領2条3項)。

(3) 理事会は、委員長が必要と認めた場合に招集し、委員長がこれを主宰する(同要領3条1項、2項)。

(4) 理事会は、委員会の円滑なる運営を期するため、委員会の案件、委員会の調査、審査の進め方、その他委員長が必要と認める事項について協議する(同要領4条)。

(5) 理事会は非公開とする(同要領5条)。(〔証拠略〕)

3  ところで、費用弁償条例7条1項は「議員(議長、副議長、委員長及び副委員長を含む。)が招集に応じ、若しくは委員会に出席したとき又は公務のため特別区の存する区域内を旅行したときは、1日につき5000円の旅費を費用弁償として支給する。」と規定し、議員(議長、副議長、委員長及び副委員長を含む。以下単に「議員」という。)に対して費用弁償がされる場合を、「招集に応じたとき」、「委員会に出席したとき」、「公務のため特別区の存する区域内を旅行したとき」の3つの場合に限定している。

被告は、理事会は、右の委員会の1つである議会運営委員会の内部に設置された機関であって、その権限の一部を行使するものであり、その活動は委員会のする議会活動の一環をなし、委員会の一部というべきであるから、これに出席することは右の「委員会に出席したとき」に当たると主張する。

しかし、議会運営委員会理事会は、既に述べたとおり、議会運営委員会とは異なり、委員会条例に基づく委員会でないのはもとより、同条例にその設置が予定されている機関でもなく、議会運営委員会の円滑なる運営を期するために、委員長及び理事ら同委員会の一部の議員によって構成される会議組織であって、その設立の根拠は、荒川区議会運営協議会の決定である理事会運営要領に根拠を有するにすぎず、会議の招集や定足数、会議の公開の有無などについても、右要領において、議会運営委員会とは全く別個の定めを有するものである。

したがって、費用弁償条例7条1項にいう「委員会に出席したとき」が広くこのような会議組織への出席までを包摂するものとして規定されているとは考え難い。

むしろ、法が、費用弁償の額及びその支給方法は、条例でこれを定めなければならないとし(法203条5項)、法律又はこれに基づく条例に基づかない給付を禁止した(法204条の2)趣旨からすれば、費用弁償の対象となる事由の解釈に当たっては、条例に規定された文言をみだりに拡大解釈すべきではないというべきであり、本件においても、費用弁償条例7条1項が「招集に応じたとき」と「委員会に出席したとき」との各要件をそれぞれ規定していることに照らせば、前者は「議会の招集に応じたとき」を指し、後者は前記の委員会条例によって荒川区に設置される常任委員会、議会運営委員会又は特別委員会のいずれかに出席する場合を指し、また、議会に置かれる委員会に出席したときの費用弁償について、右のとおり議会への出席とは別に規定していることからすれば、右の「委員会に出席したとき」には、各委員会の内部に設けられた各種の会議組織への出席などは含まれないと解するのが相当である。

したがって、議会運営委員会理事会への出席は、費用弁償条例7条1項にいう「委員会に出席したとき」には当たらない。

なお、議員が、議会の招集に応じるときや委員会に出席するときには、必然的に各議員の自宅等の居所から議場又は委員会の開催場所への場所的移動を伴うけれども、費用弁償条例7条1項が、これらの場合を、「公務のため特別区の存する区域内を旅行したとき」と並立する別個の事由として規定していることからすれば、右のような議員の自宅等の居所から議場又は委員会の開催場所への場所的移動は、「公務のため特別区の存する区域内を旅行したとき」には当たらないと解すべきであり、そうであるとすれば、議員が議会運営委員会理事会への出席のために議会内の開催場所へ移動することについても、「公務のため特別区の存する区域内を旅行したとき」には含まれないと解すべきである。

4  したがって、本件各支出命令は、条例に基づかない費用弁償を命ずるものであり、違法というべきである。

二  争点2について

1  被告は、自己の権限に属する本件各支出命令に関する事務を区議会事務局長に委任し、同事務局長が本件各支出命令をしたものであるところ、被告が、本来的権限者として同事務局長に対する指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失によって本件各支出命令を阻止しなかった場合には、荒川区に対し、違法な本件各支出命令によって、荒川区が被った損害を賠償すべき義務を負わなければならない。

2  そこで、被告に指揮監督上の義務違反があったか否かを検討する。

被告は、平成元年9月から現在に至るまで、荒川区長の職にあるものであるが、荒川区においては、平成3年法律第24号により法109条の2の規定が新設されたのを受けて、委員会条例が同年10月4日改正され、新たに委員会条例に基づく委員会として議会運営委員会が設置されたころから、議会運営委員会理事会に出席した議員に対して、費用弁償条例7条1項に基づいて、費用弁償をすることができるものとして、費用弁償が行われてきたこと、被告は、区長として、このような取扱いを正当なものと考え、法149条2号に基づいて、費用弁償条例にいう費用弁償費を毎年度の予算に計上してきたことは、当事者間に争いがない。

また、議会運営委員会理事会は、委員会の円滑なる運営を期すために協議を行うことを目的として開催されることとなっているところ、〔証拠略〕によれば、平成9年中には、本件理事会の前までにも、合計16回の議会運営委員会理事会が開かれたが、これらはすべて幹事長会の終了に引き続いて開催され、1回を除けば、会議時間はいずれも1分で終了していること、平成9年9月24日及び同年10月16日に開かれた本件理事会も、それまでと同様、幹事長会に引き続いて行われ、その内容は、幹事長会で決定された事項を理事会として了承するというものであり、審議時間はいずれも1分であること、議会運営委員会理事会の出席者は、幹事長会におけるオブザーバーが除外されるほかは、幹事長会の出席者と同一であり、本来、議会運営委員会理事会の構成員でない幹事長会出席者についても、委員長から出席要請がなされた上で、費用弁償が行われていることは、いずれも前記認定のとおりである。そこで、右のような会議の実態に照らせば、本件理事会は、幹事長会に出席した議員について、費用弁償を行う手段として開催されたものと認めるのが相当である。

被告は、本件理事会及びこれに先立って行われた幹事長会のいずれにも、執行機関側の説明員として出席し、右のような本件理事会の実情を知悉していたのであるから、費用弁償条例7条1項の規定を適用して、本件理事会に出席した議員に対して費用弁償をすることが許されるか否かを十分に検討すべきであったにもかかわらず、漫然と同項の規定によって費用弁償ができるものと判断し、区議会事務局長に対して何らの指揮監督権限を行使することなく、本件各支出命令を阻止しなかったものであるから、右監督義務を懈怠したことにつき、少なくとも過失が存在するというべきである。

三  以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

なお、仮執行の宣言は、相当でないので、これを付さないこととする。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 村松秀樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例